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世界中の投資家の間で仮想通貨がブームになっていますが、その仮想通貨を利用した新しい資金調達方法として登場したのが、「ICO」です。
ICO(イニシャル・コイン・オファリング)とは、おおまかに述べると、投資家へ向けて新規仮想通貨を公開し、その対価として出資を募る方法です。
このように仮想通貨を利用したICOとはどのような仕組みなのか、資金調達を行う実際の手順などを、初歩から説明します。
仮想通貨の仕組み
まず、ICOの基盤となる仮想通貨の仕組みについて説明します。
仮想通貨とは、世界中で使えるインターネット上の通貨で、誰でも自由に購入・発行することができます。
主な仮想通貨の種類としては、日本でも流行した「ビットコイン」や、それを上回る将来性が期待されている「イーサリアム」などが挙げられます。
その種類は、国内外で発行されているものを併せて1,600種類にも及びます。
一般的には、商品購入や国際送金、投資を目的として利用されています。
ICOは、企業が独自の仮想通貨を発行し、インターネット上で投資家に対して販売することで、その対価として資金を得る方法です。
投資家は通貨の価値上昇による利益獲得や、企業を応援する目的のために、企業の発行する通貨を購入します。
ICOとは、このような「新規仮想通貨公開」の略称であり、IPO「新規株式公開」の仕組みに似ています。
IPOと異なっているのは、現金の代わりに仮想通貨が利用されるという点です。
ICOは、「クラウドセール」「トークンセール」とも呼ばれており、「トークン」とは企業独自の仮想通貨を指す用語です。
トークンは企業によって独自の付加価値が付けられる他、ビットコインなどの有名な仮想通貨と交換することができます。
企業は、ICOの前に「ホワイトペーパー」という文書を公開します。
ホワイトペーパーには、資金調達の目的や目標額、特典といった概要が記載されており、投資家にとって重要な判断材料になります。
クラウドファンディング(ICO)を使った資金調達の流れ
ICOによる資金調達は、以下の流れで実施されます。
- ホワイトペーパーを作成し、ICOの準備をする
- 投資家に対してICOの情報を公開する
- 販売された独自トークンを、投資家が仮想通貨で購入する
- 企業はトークンセールで得た仮想通貨を、仮想通貨取引所で現金に交換する
クラウドファンディング(ICO)の使い方
上記の資金調達の流れに沿って、ICOの具体的な手順を詳しく解説していきます。
ICOの準備
ICOの準備段階では、まず以下の点を計画・検討し、投資家にとっての参考資料となるホワイトペーパーに記載する必要があります。
- トークンを発行する目的(プロジェクトの詳細、製品やサービスの情報)
- 資金調達の目標額
- セールの開始日と終了日
- トークンの特徴と購入するメリット(特典)について
その他、トークンの技術や仮想通貨のリスクに関する説明なども記載されます。
独自トークンには複数のタイプがあるので、ビジネスモデルに応じてどれが最適なのかを検討しましょう。
トークンのタイプによっては、仮想通貨交換業の登録が必要になるなど、その後の手続きや税金の支払いに関係してきます。
代表的な独自トークンのタイプは、以下の通りです。
仮想通貨型トークン
ビットコインなどの一般的な仮想通貨と同じように流通・取引されるトークンです。
仮想通貨交換業の登録が必要になる場合があり、基盤の弱いスタートアップ企業にとっては特に、設計の負担が大きいです。
ファンド型トークン
トークンの保有数の割合と、プロジェクトの成果に応じて、収益の分配が決まるタイプです。
投資対象としての性格が強く、金融商品取引法の規制対象となる可能性が高いです。
優待会員型トークン
独自トークンを保有していると、その企業の商品・サービスが割引になるといった優待特典がつくタイプで、株式の優待サービスと似ています。
投資の初心者にもメリットがわかりやすく伝えられ、商品・サービスのファンをいち早く獲得することができます。
プリペイド型トークン
企業の商品・サービスにおいて、プリペイド型の通貨として機能するトークンです。
SuicaやPASMO、nanakoといった電子マネー・ポイントに似ているタイプです。
資金決済法上の「前払い支払手段」に該当する可能性が高く、その場合は供託金を用意して、財務局に届け出る必要があります。
プラットフォーム型トークン
ネットワーク上のプラットフォームや、アプリケーションの利用料に使えるトークンです。
有名なトークンとして、仮想通貨イーサリアムのネットワーク上で発行された「Ether(イーサー)」が挙げられます。
ビットコインなどの一般的な仮想通貨と同様に、決済や送金手段として用いられる場合は、仮想通貨交換業の登録が必要です。
寄付型トークン
配当や特典といったリターンのないトークンで、投資家の善意によって購入されます。
公益性の高いプロジェクトであれば、多くの資金を調達できる可能性があります。
投資家に全くリターンがない、またはリターンが極端に低い場合は、贈与税・法人税の課税対象になることがあります。
ICO情報の公開
トークンの宣伝には、不特定多数の投資家にPRする方法と、特定の投資家を対象にオファーするという方法があります。
ICOのアナウンス(お知らせ)やプロモーションには、自社ホームページをはじめ、ニュースサイトやSNSといった強力なメディア媒体を活用すると、高い認知度を獲得できます。
トークンの大量購入や早期購入に対しては特典を設けることで、注目度を高められます。
投資家に向けて情報公開を行うなら、ICOプラットフォーム(情報サイト)に掲載依頼を行うのが効果的です。
日本語で利用できるICOプラットフォームには、「COIN NINJA」や「CRYPTO COIN PORTAL」などがあります。
これらのサイトでホワイトペーパーを公開し、投資家の間で知名度や信用を得ていきましょう。
従来のクラウドファンディングと同様に、群衆に対してわかりやすく、効果的に自社の魅力を伝えられるかどうかが、ICO成功の鍵となります。
トークンセール(クラウドセール)の実施
独自トークンを発行し、仮想通貨取引所で販売する段階です。
投資家は、現金をビットコインなどの仮想通貨に交換し、その仮想通貨で独自トークンを購入します。
独自トークンは、ビットコインやイーサリアムといった、既にある仮想通貨の技術をベースに発行されます。
ICOでは、イーサリアム(ETH)の「スマートコントラクト」というプログラミング技術で独自トークンが発行されることが多いです。
その他、ネム(NEM)やウェーブス(WAVES)、カウンターパーティー(XCP)といった仮想通貨をベースに発行することもできます。
例えばイーサリアムで発行する場合、以下の準備が必要です。
- GoogleChrome
- イーサリアム公式ウォレット(MyEtherWallet)
- 独自トークン発行ソフト(TokenFactry)
公式ウォレットや独自トークン発行ソフトは、無料で利用できます。
その他、手数料として0.15ETHを取引所で購入し、支払う必要があります。
以下の手順で、独自トークンを発行することができます。
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まず、イーサリアム公式ウォレットを作成しましょう。
公式ウォレットはPCで使えるデスクトップウォレットで、イーサリアムなどICOで用いる通貨・トークンの保管ができます。
仮想通貨取引所よりもセキュリティがしっかりしており、ハッキングによる通貨紛失などの不安がありません。
パスワードの作成や秘密鍵の発行などの手順により、ウォレットアカウントを作成できます。
日本語対応なので、画面の指示に従うだけで操作は簡単です。 -
グーグルクロームの拡張機能ストアで、「MetaMask」をダウンロードします。
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仮想通貨取引所で手数料分のイーサリアム(0.1~0.15ETH)を購入し、MetaMaskへ送金します。
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独自トークン作成ソフト「TokenFactory」にアクセスし、表示された入力画面で「発行枚数」「トークンの名称・略称」「小数点以下の桁数」などの設定後、独自トークンが発行されます。
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MetaMaskを起動し、発行した独自トークンをイーサリアム公式ウォレットに追加します。
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イーサリアム公式ウォレットでMetaMaskのアカウントを使ってログインします。
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作成した独自トークンの情報(HPのURLやロゴ、ホワイトペーパー、連絡先など)を設定し、承認後、情報が公開されます。
以上が、イーサリアムで独自トークンを発行する大まかな流れですが、ICO未経者にとっては複雑な作業が多く、難航するかもしれません。
そこで、ICOによる資金調達を検討している企業のサポートを目的とした、ICO支援サービスが注目されています。
ICO支援サービスとは?
日本で初めて開始されたICO支援サービスとしては、2017年にスタートしたICOプラットフォーム「COMSA」が有名です。
国内の大手仮想通貨取引所・販売所「Zaif」を取り扱う、「テックビューロ株式会社」によって運営されています。
COMSA自体も、ICOによって総額100億円を超える資金調達に成功しており、資金調達額では世界第7位を記録しています。
COMSAの提供しているICOソリューションは、以下の通りです。
- ブロックチェーン導入プランの立案
- ホワイトペーパーの整備
- トークンセールやPRに必要なツールの提供
ただ、2018年から金融庁の注意喚起を受けて、支援の実施は難航しているようで、安全に利用するためにも法整備が待たれます。
テックビューロ以外に、SBIやアルトデザインといった企業もICO支援に名乗りを挙げており、ICOが追い風に乗ることが期待されます。
仮想通貨を現金と交換
ICOに成功すると、独自トークンの対価として、投資家から購入された額の仮想通貨が集まります。
その仮想通貨を、取引所で円に換えることで、ICOが完了します。
大手仮想通貨取引所「ビットフライヤー」を例に、仮想通貨を円に換える手順を説明します。
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サイドバーメニューから販売所画面に移動し、メニューから売却したい通貨の種類を選択します。
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表示された取引画面で、売りたい数量を入力し、「コインを売る」をクリックします。
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その時点のレートで売り注文が成立すれば、売却完了です。
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サイドバーメニューの入出金画面にアクセスし、「日本円ご出金」を選択します。
事前に、出金先の銀行口座情報を登録しておきましょう。
万全なセキュリティのために、出金申請時の二段階認証を設定しておくと安心です。 -
出金先銀行口座を選択し、出金額の入力後、「日本円を出金する」をクリックし、出金手続完了です。(クリック後は取り消しできないので注意してください。)
ビットフライヤーでは、指定銀行を三井住友銀行にすると、手数料が安くなります。
その場合、出金額が3万円未満なら216円、3万円以上なら432円です。
日本円出金依頼が銀行営業日の午前11時30分までの受付なら当日中、それ以降は翌銀行営業日に、銀行口座へ反映されます。
出金依頼が集中する月初めや月末、休日明けなどは反映に時間がかかる可能性があるので、注意しましょう。
税金の支払いについて
ICOで調達した資金には、法人税または消費税が課税される可能性があります。
法人税の場合、調達資金が売上とみなされれば、そこから経費を引いた金額に対して税金がかかります。
日本の税法では、法人事業税や法人住民税も含めると約30%の税金が引かれることになり、ICOのメリットが少なからず損なわれてしまいます。
日本ではICOの事例はまだまだ少ないため、改正資金決済法による税務上の明確な取扱いが定まっていません。
取引の内容によっては、負債として計上され、法人税が課されない可能性もあるでしょう。
企業の独自トークンが仮想通貨タイプに該当すれば、8%の消費税が課税されます。
ICOのメリット・デメリットは?
事業者がICOを行うメリットとデメリットについて、それぞれ説明します。
- 調達した資金を返済しなくても良い
ICOは借金ではなく出資という扱いで、原則として見返りは必要ありません。
ですが、商品・サービスの割引特典といった何らかのリターンは用意しておくと、出資者に注目されやすくなるでしょう。
- 短期間で多額の資金調達が可能
IPOでは十分な出資が集まるまで年単位を要しますが、ICOでは約半年という短期間で一気に資金調達できるのが魅力です。
特に、スピーディーに多額の資金を集めようとしているスタートアップ企業には最適な方法です。
- 仲介者を挟む必要がなく、低コスト
ICOは、銀行などの仲介業者に依頼しなくても自社の裁量で行えるので、手数料コストが発生しません。
また、手続きは全てオンラインで完結し、書類作成の手間もかかりません。
- 自己資金や実績がなくても始められる
独自トークンの発行手数料を除き、ICOにはほとんど自己資金が必要ありません。
また、公的機関や金融機関による審査がないので、会社の実績や信用を問われることはなく、すぐに資金調達をスタートできます。
- 世界中から広く出資者を集められる
ホワイトペーパーを外国語に翻訳し、世界中にPRすることで、国籍を問わず出資者を集めることができます。
さらに小口から出資できるので、個人投資家も含む幅広い投資家が対象になります。
- 出資者に対して配当や経営権を渡さなくても良い
株式発行とは異なり、IPOでは投資家が経営に関わることはないので、安心して出資を募れます。
利益を配当するタイプの独自トークンも設計できますが、それ以外で出資者へのリターンは自由に決められます。
- 投資家に対して効果的な情報開示をする必要がある
ICOはまだ法整備が十分ではない状況なので、不安を感じている投資家は多いです。
そこで、積極的に情報開示をすることで、会社の信頼性やプロジェクトの実現性を安心材料として与えることが重要です。
PRが上手くなければ、思ったより資金が集まらないという事態になるかもしれません。
- 規制が厳しくなる可能性がある
中国や韓国のように、ICOを利用した詐欺が問題視され、ICOが禁止になってしまった国もあります。
これを受けて、日本でも規制が厳しくなる可能性はあるでしょう。
- 成果が出せないと会社のイメージが悪くなる
ICOで資金調達に失敗すると、少なからず会社のイメージに悪影響が出てしまいます。
失敗を避けるには、ターゲットとする業界である程度の経験を積み、顧客と十分なコミュニケーションを取って柔軟にニーズを反映することが重要です。
資金調達に成功した企業のライティング
世界のICO資金調達額ランキング上位に入っている企業の、資金調達成功事例をいくつか紹介します。
Filecoin
2017年度の資金調達額ランキングで、世界第1位を獲得したIT企業です。
世界中の約半数を占める未使用ストレージを有効利用した「分散型ストレージネットワーク」の開発が注目され、約2.5億ドルの資金調達に成功しています。
The Dao
The Daoとは非中央集権型の投資ファンドで、その革新的なプロジェクトが注目され、調達額は約150億円を超えています。
しかし、後に技術的な脆弱性を突かれて約60億円の通貨が流出してしまい、仮想通貨界隈のニュースを騒がせました。
プロジェクトは失敗してしまいましたが、従来の金融システムに一石を投じた存在として、強い影響を残した会社です。
COMSA
日本では10社を超えるプロジェクトがICOによる資金調達に成功していますが、その中でも有名なのが、ICOプラットフォームの「COMSA」です。
独自トークン「CMS」の発行により、100億円を超える資金調達に成功しています。
COMSAはICOの導入サポートを手がけるプロジェクトで、国内ICOの中核的存在を担っていくことが期待されます。
ALIS
ALISは、日本でブロックチェーンの技術を利用したSNSを開発しており、約4億円の調達に成功しています。
ユーザーの評価が高い優良な記事を集め、投稿者と評価者(ユーザー)の両方にALSという独自トークンが配布されます。
広告に頼る従来のメディアとは違った、全く新しい形のSNSとして世界中から注目され、調達額の約3割は海外からの出資です。
このように、日本でもすでに何件ものプロジェクトがICOによる資金調達に成功しています。
この勢いに乗って、今後も世界に注目される画期的な企業が、日本から続々と登場するかもしれません。